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2014年6月1日日曜日

「カウガール・ナニの冒険」後書

漫画「カウガール・ナニの冒険」ヨウコ・ヌオラ著、ハル吉訳
定価1400円(峠の地蔵出版)A5判112P 表紙カラー・本文モノクロ。フィンランドのコミック事情が分かるインタビュー付き。

 私の職業はカウボーイじゃなくてカウガール、今日も馬に跨(またが)りジャングルを駆け巡る。でも跨るのは馬だけじゃないわよ。気丈な私は騎乗位も好き!
 こんな細密マンガ見た事無い!フィンランドの鬼才ヨウコ・ヌオラが描くエロティック・ユーモア、日本初上陸。カウガール・ナニのセックス&冒険&ロックンロールな日々をとくとご覧あれ。成人向けです。


解説は本書に書いたので落穂拾いとして後書を。本当は後書も巻末に入れたかったが、同人誌出版は大手の通常出版と違い一ページ一ページが原価に跳ね返るため、経費と定価を出来るだけ抑えるために本書には収録せずここに記す。


オレがこの漫画を出そうとした切っ掛けはコタクジャパンの記事でヨウコ・ヌオラが紹介されてたからなんだ。面白そうだったんでリンクで飛んでヨウコのサイト見たら、画力がハンパねぇの。で新刊『Nani III + IV』(英語版)を直販してたから買って、読んだらやっぱスゲーの、絵が。あ、ストーリーはエロティックユーモアだから大したことないんだけど(笑)。んで、印税安いけど、日本語版出したいってメールしたらOKって言ってくれて。それが去年(2013年の12月ぐらい)の話。そっから、翻訳、契約、デザイン、DTPとか、印刷と製本以外全部一人でやってやっと3月(2014年)に入稿完了。
 ヨウコは非常にナイスガイで、表紙用にイラストが欲しいけど、金は無いから既存の絵でいいんだけどってお願いしたら「描くよ!金はいらねぇ!裏表紙も!」って言ってくれて。「リクエストは?」って聞かれたので、フィンランドの国旗を入れてってお願いした。なので表紙・裏表紙は日本オリジナル。
 あとエロティック漫画の問題と言えば、そう皆さんご存知の、性器。原著はもちろん無修正なんだけど、そのまま日本で出すのは危険かなぁと思って(ミロ・マナラの漫画は無修正で出たらしいけど。あと空山基の画集とかは無修正なの知ってるけどさ)、それと印刷会社が無修正だと印刷受け付けないっていうのもあったから、こっちで修正(成人漫画系の短い横棒みたいなの)入れるけどいいかって聞いたら、「あぁ日本は性器の露出はダメだって話、聞いた事ある。よかったらエロティック野菜・果物とか性器を隠す絵を描くけど、どう?」って言ってくれて。なので、性器の修正に花、葉、果物を使った、こちらも日本限定仕様です!しかも沢山描いてくれたので、修正の絵が全部違うという豪華仕様!一枚の紙に色々描いてきたので、全部パソコンで切り抜いて、オレが一個一個インデザインで張ったよ。
(二枚描いてくれたうちの一枚)

 もう一つ海外漫画の問題点としてよく挙げられるのが「値段が高い」だと思うけど、今回はなんと定価20ユーロ(約2800円)の半額1400円!大安売り。本当はオレもこんな安い値段で売りたくないよ、でも、たぶん、大勢の人はこれでも高いって思うだろうな。
 傲慢かましてよかですか?(©小林よしのり)
海外の漫画が高いんじゃない。日本の漫画が異常に安すぎるんだ!
オレの作業全部タダ働きだからこの値段で出せるけど。本書に限らず海外漫画の翻訳本を買おうかな、と思ってる人はさ「これは高いんじゃない、普通だ、むしろ翻訳料とかデザイン料とかかかってるんだから、安い、安い、安いはず」と自分に言い聞かせて買ってほしい(笑)。
 オレの予想だと、今後ね、翻訳漫画はもっと安く出せるようになると思うんだ。日本は人口が多いし漫画を読む人も多いでしょ、まだ海外漫画は知られてないだけで、まぁ小学館プロはがんばってくれてるけど。で、認知度が上がって、海外漫画読者が一万人ぐらいになれば、もしかしたら海外の定価より安く出せるんじゃないかな。なぜ海外の漫画が現地でも20ドル・ユーロぐらいするかって言うとやっぱり読者数が少ないからなんだよ。刷り部数が少ないと原価がどうしても高くなるから定価も高くなる。例えば、オルタナティブコミックの老舗ファンタグラフィックスが出してた漫画雑誌「MOME」、これ確か3000部だったかな。まぁ、雑誌だから少ないのかもしれないけど、英語圏全域に売るわけでしょ、それが3000部だよ、定価も高くなるって。日本だと普通の人は読まないエロ漫画だって10000部ぐらい刷るでしょ。
 たしかプレスポップが出してる翻訳漫画は初版3000部ぐらい言ってた気がするんだけど、他の出版社から出た戦争漫画の金字塔って言われてる海外漫画も3000部だって聞いた事が有る。だから日本でも海外でも海外漫画は日本漫画に比べて高い。でも、これを日本で一万部刷れれば、原価はかなり下がるから海外定価の半額でも出せるはず。1000円ぐらいで丸尾とか花和とか東陽みたいな判型で出せるようになれば、割高感も減ると思うんだよね。だから未来は明るいと。ただしそれでも小さい出版社じゃないと無理かな、というのは大手の出版社は社員の給料が高いからそれを海外漫画で賄うのは無理っぽい。でも好きでやってるから給料は20万+ボーナスでいいですっていう小さい出版社がいれば、翻訳漫画だけでも商売としてやっていけるんじゃないかな、読者が最低一万人以上いれば。で日本で漫画読者一万人は軽い数字だと思うよ、あとは認知度だけだ。
しかし小学館プロはあんなにドンドン出して収益でてんの?それとも他の部署が利益出てるから、余興でやってんの?昔の集英社海外文学全集みたいな、採算度外視OKって感じ?
 とにかく、海外漫画が日本にも根付けば、少し雇用も増えるよ。今は未だ海外で賞を取った定番ばっかり出してて、翻訳者も決まった数人で回してる感じだけど、文学より推理小説の方が面白かったりするのと同じで、賞を取ってない面白い漫画は沢山あって、そういうのも出すようになれば、翻訳家もそれだけ必要になるでしょ。小説とかノンフィクションは無理でも絵があれば訳せるって人、多いと思う、映画字幕家希望者とか。そういう人達が漫画翻訳してもいいと思うんだよ。ね、雇用増えるでしょ。
 そんなこんなで話は脱線したけど、日本にエロ漫画(ポルノ漫画:オナニー用)はあっても、「カウガール・ナニの冒険」みたいなエロティック漫画(オナニー用ではない)ってなかなか無いからね。楽しんで欲しいな。
 本書を読めば、日本の漫画がいかに手抜きで描かれているか分かると思うよ。日本の漫画家は連載が前提だから締切に追われてて、描いてる時間が無いのも分かるけどさ。描いてる時間が無いから背景を描かず、描いてる時間が無いから上半身ばっかりのコマで、描いてる時間が無いからトーンを貼って、描いてる時間が無いから背景素材集からコピーしたり、描いてる時間が無いからスタッフ雇って描かせたり、それってひどくないか。スカートや衣服など曲線のある物に直角の格子柄のトーン張っても漫画家も読者も気にしないもんな。オカシイだろ。まぁ漫画家は悪くない、生活と締切がかかってんだから。問題はそういう漫画しか読んだこと無い奴らが「漫画は芸術」ってほざくこと。まぁそういうのしか読んだ事ないから、逆に能天気に言えるのかもしれないけど。「何が芸術か」って色々あると思うけど逆に「何が芸術では無いか」と問うなら、オレは手抜きで描いた漫画は芸術じゃないと思う。ついでに編集者の問題については、こちら
 漫画家が自分の美的表現として背景は描かない(日本にはそういう伝統が有る。松だけドーンと描いて背景描いてない屏風とか)ならいいけど、締切が有るんで描きませんじゃ、それはただのテヌキだ。その点「カウガール・ナニの冒険」の絵はすごいぞ。ただしストーリーは……(笑)。

ヨウコ・ヌオラ(Jouko Nuora)http://www.nuora.com/
1963年生まれ。フィンランド・フォルッサ在住。1993年から漫画家・イラストレーターとして独立。98年に「ナニ」第一巻発売。2003年に第二巻、2008年にはフィンランドを代表するメタルバンド、ロルディと共同でロルディ漫画を製作。2011年に自伝漫画『Kultainen nuoruus』(訳:青春時代)がフィンランド・コミック・ソサエティーの100周年記念コンペティションで一位受賞。2013年にフリー・イラストレーター歴20年を記念し個展を開催。現在「Kultainen~」の二巻と本書の二巻を執筆中、美術講師、漫画講師も務める。元ハノイロックス(現在はマイケル・モンロー・バンド)のサミ・ヤッファとはクラスメイトだった。

ハル吉(Harukichi)http://gosshie.blogspot.jp/
1973年生まれ。自称漫画家・翻訳家。エアー猫DJゴッシーと二人暮らし。